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2021/03/16

コラム

借りた借金が時効となる「消滅時効の援用」とは?

借金は、貸した人(債権者)から見ると、「貸金返還請求権」という権利(債権)です。


債権には「消滅時効」という制度があります。そのため、借金を放置していると時効にかかることがあります。つまり、借金がなくなることがあります。


借金はいつ時効にかかるのでしょうか?借りている人は何か手続をしなければいけないのでしょうか?ここでは、借金と消滅時効について解説します。


1.消滅時効とは?

(1) 消滅時効とは

時効とは、一定期間続いた事実状態を尊重し、その事実状態に合わせて、権利の得喪が起こる制度のことです。権利の上に眠る者は保護しないという理念や、時間の経過によって証拠の散逸などが起こることなどを理由として設けられています。


時効には、取得時効と消滅時効がありますが、消滅時効は、一定期間権利を行使しないことによって、権利が消滅する制度です。


民法167条

1 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。


民法167条1項によって、貸金返還請求権は10年で時効消滅するので、お金を借りている側からみれば、返さなくてもよくなるわけです。



(2) 銀行や貸金業者からの借金

一方、商事債権については、商法第522条によって、5年で消滅時効にかかるとされています。


商法522条

商行為によって生じた債権は、この法律に特段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。


銀行や貸金業者は、商法上の「商人」であり、銀行や貸金業者が行う貸付は「商行為」ですので、民法167条ではなく、商法522条が適用されるのです。(※注釈1参照)



(3) 消滅時効の起算点

では、いつから10年、もしくは5年なのでしょうか?時効の進行が始まる時点のことを「起算点」と言います。


消滅時効は、債権者がその権利の行使が可能になった時点から進行します(民法第166条1項)。


①返済日を決めている場合

例えば、100万円を借りていて、平成20年3月10日に返すと約束していたとします。


そうすると、債権者は、平成20年3月10日になったら、「借金を返してくれ」と言えるようになります。これが、権利の行使が可能になった地点です。


②分割払いの契約の場合

では、100万円を平成20年3月10日から毎月10日に5万円ずつ返すと約束していた場合はどうでしょうか?


この場合には、平成20年3月10日には5万円を返せとしか言えないので、100万円のうちの5万円だけ時効が進行し、その後、毎月毎月5万円ずつ時効の進行が始まります。


ただし、分割払いの契約の場合、「期限の利益喪失約款」という約束をしているのが通常です。これは、お金を借りている人が、「2回返済を怠りその合計額が10万円になったときには、期限の利益を喪失する」というような条項です。


「期限の利益」とは、簡単に言うと、「貸したお金は分割で払ってくれればいいよ」という利益のことです。この利益を喪失すると、「残りをすべて一括で払え」と請求されても文句はいえないことになります。


債権者が「残高をすべて一括で払え」という意思表示をした場合には、残高すべての時効の進行が始まります。


③返済日を決めていない場合

家族や友人・知人などからお金を借りている場合、返済日を決めていないこともあります。


その場合、債権者は、「相当な期間を定めて返還請求ができる」(民法591条第1項)ため、返還請求をされてから相当な期間が経過した時から時効が進行するとされています。


「相当な期間」がどれくらいかは、その関係性や借金の額などの個別具体的な事情によると言えます。


このように、契約内容によって、時効の起算点は異なりますので、注意が必要です。


(4) 保証会社による代位弁済の場合

例えば、銀行から住宅ローンを借り入れるとき、借りる人は、銀行の指定する保証会社と保証委託契約をします。


そのため、住宅ローンを一定期間滞納すると、銀行からの請求によって保証会社が、あなたに代わって返済を行います。これを「代位弁済」と言います。


保証会社が代位弁済すると、保証会社は債務者に対する「求償権」を取得しますので、債権者になります。


保証会社が代位弁済をした場合には、代位弁済から5年で債務者に対する「求償権」が時効消滅します。


2.時効中断事由

(1) 時効の中断とは?

時効の中断とは、進行していた時効がストップしてしまうことです。ストップした時効は、そのあと、続きから進行するのではなくて、また1から進行します。


民法157条

1 中断した時効は、その中断の事由が終了したときから、新たにその進行を始める。


例えば、サラ金からの借金を滞納して最後の支払から4年間放置していたけれど、取立がうるさかったので、借金の一部の支払をしたという場合、その支払によって時効は中断しますので、その支払からさらに5年経たなければ、消滅時効は完成しないということになります。


(2) 時効中断事由とは?

時効中断事由は、民法147条に定められています。


民法第147条

時効は、次に掲げる事由によって中断する。

一 請求

二 差し押さえ、仮差し押さえ又は仮処分

三 承認



①請求

請求とは、裁判上又は裁判以外で権利内容を主張する行為ですが、権利の内容が公に確認されたといえるような手続を取る必要があります。そのため、電話や手紙で、支払いを求めるだけでは、「請求」にあたりません。


ただし、支払いを求めることは、「催告」には当たるので、その後6ヶ月以内に裁判等の法的手続を取れば、時効は中断します(民法第153条)。

「催告」とは、支払いを求める意思の通知のことです。


民法第153条

催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立、和解の申立、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差し押さえ、仮差し押さえ、又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。


②差し押さえ、仮差し押さえ又は仮処分

差し押さえ、仮差し押さえ又は仮処分は、民事執行法、民事保全法に基づいて行う法的手続です。


③承認

「承認」は、債務を負っている側から、債務を負っていることを認めることです。


滞納していた借金を一部でも支払えば、自分に借金があることを「承認」したことになりますので、それまで進行していた消滅時効は中断し、最後の支払をした日から、再度時効の進行が始まります。


④時効の完成後に支払ってしまったら?

時効の中断は、時効の進行中に起こります。時効が完成した後は、「中断」という概念は発生しません。


そのため、時効が完成しているにもかかわらず、滞納している借金の一部を支払っても、「承認」にはなりません。


しかし、借金の一部を払うということは、借金を払う意思があるのだと債権者に期待を抱かせることになるので、その後で、消滅時効を援用することは信義則に反するのでできないとされています。


時効が完成していることを気づかずに払った場合でも、その後に消滅時効を援用することはできません。


長期間滞納後の支払や債務承認の書類への署名・押印などは慎重に考える必要があります。


(2) 債権譲渡されている場合

滞納している借金は、業者間で転々と債権譲渡されていくことがあります。

債権譲渡を行った場合には、譲渡した債権者が債務者に対して、債権譲渡の通知を行います。


この債権譲渡の通知を受け取っていても、これは「観念の通知」にすぎないので、「請求」や「催告」にはあたらないため、時効には影響がありません。


借金を滞納していると、債権者が変わっていくことがありますが、「代位弁済」によって、債権者が変わったのか、「債権譲渡」によって債権者が変わったのかは、時効の起算点の観点から注意する必要があります。



(3) 判決

債権者が、訴訟を提起して判決を得た場合には、その判決が確定したときから10年経たなければ、消滅時効は完成しません(民法157条第2項、民法第174条の2)。


例えば、夜逃げしていた場合には、自分の知らないうちに「公示送達」という方法で、欠席判決が出ていることがありますので、注意が必要です。


これらのように、消滅時効の中断については非常に複雑な運用がなされています。ですから、自分で判断せず、弁護士に相談することが大切です。


(※注釈2参照)



3.消滅時効の援用とは?

(1) 援用しなければ借金は消えない

時効が完成しても、援用しなければ効力がありません(民法145条)。


時効の援用とは、簡単に言うと、「時効の利益を受けます」ということを相手に伝えることです。法的には「消滅時効援用の意思表示をする」と言います。


民法145条

時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 


(2) 消滅時効の援用の方法

消滅時効の援用の意思表示は、法的には、電話でも手紙でも、相手に到達すれば効力が発生します。


しかし、そのようなやり方では、聞いた、聞いていないという争いになります。このような重要な手続については、証拠を残しておく必要がありますので、内容証明郵便(配達証明付き)で債権者に通知することが必要です。



4.注釈

(※注釈1)平成29年5月26日に、民法の一部(債権法とも呼ばれる民法第三編)を改正する法律が成立し、同6月2日に公布されました。この法改正の施行は2020年4月1日となっています。本記事の内容はこの法改正の前の情報であり、2020年4月1日をもって変更される予定の内容を含んでいます。


消滅時効の時効期間については、時効期間の判断を容易にするため、職業別短期消滅時効期間を廃止しつつシンプルに統一し、「原則知った時から5年」、「原則権利を行使することが出来るときから10年」のいずれか早い方の経過によって時効が完成となります。これに合わせて、商法522条の商事事項については廃止とされます。


(※注釈2)上記法改正に伴い、時効の中断・停止の概念も見直しがなされます。また、裁判上の「催告」についての取り扱いも明文化されるべきとの議論から、合わせて整理されます。



5.まとめ

消滅時効は、時効の起算点はいつなのか、中断していないかなど、本当に借金が時効消滅しているかどうか慎重に検討する必要があります。


時効が完成していないのに、間違えて時効の援用の意思表示をしてしまうと、債権者が時効の完成が近いことに気づいて慌てて、時効中断をしてくるかもしれません。そうすると、受けられるかもしれなかった時効の利益を受けられないことになってしまいます。


また、配達証明付き内容証明郵便できちんと時効消滅の援用の意思表示をしておかないと、その効力を巡って後々、争いになることもあります。


借金に関することは、自己判断で行動せずに、債務整理に強い弁護士に一度相談してみるべきです。


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