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遺産相続

初めに

遺産の有無にかかわらず、故人の死に際して発生するのが「相続」の問題です。故人の死を悼む間に始まり、次々と様々な「期限」がやってくるのが相続です。しかし、相続はそう頻繁に起こるわけでもないため、詳細な流れをご存知の方はそう多くはないかと思います。そのために、いざ相続が発生した時に慌ててしまったり、思わぬトラブルが発生してしまったりするケースが非常に多いのが実際です。


更に相続は「争続」と表現されることもあるほど、時に遺産分割や遺言、その他残された借金問題などにまつわる争い・トラブルが多く、事態が深刻になってから弁護士にご相談に来られる方もいらっしゃいます。


そこで、このサイトで相続について詳しく知っていただき、相続トラブルが既に発生している方でも、できる限り早期に手を打ち、解決へと進んでいただけるようにと願っております。


このサイトでは、相続に関する基本的な知識、流れ、手続き、制度などをご紹介し、わかりやすく解説してまいります。


遺産相続には様々な手続きやその期限があるため、相続問題は専門家である弁護士に任せた方がよい部分がたくさんあります。当事務所では遺産相続にかかわるご相談を受け付けております。お電話もしくはメールにてまずはお問合せください。


相続発生後の流れ

財産を残す側の故人(以下、被相続人と呼びます)がなくなった時点で相続が開始します。


まずは概略をおさえておくと理解がスムーズです。


相続は相続税の納付を一つのゴールとして様々な手続きを行っていきます。なお、相続税の納付は、相続発生後10カ月以内となっていますが、これが意外にも短いものです。特に相続財産が多い場合や遺産分割でもめる場合、遺言書について争う場合などでは10カ月を超えてしまうケースもあります。そうすると、相続税を期限の10カ月を過ぎてから納めることになり、様々な控除を受けられなくなったり、延滞税がかかったりして、非常に高額の相続税を納める必要が発生します。ですから、弁護士などの専門家を交えた上で、確実かつ迅速に相続手続きを行うことが求められます。


①死亡届

被相続人の死亡後には、医師により「死亡診断書」を発行してもらいます(事件性がある場合は、警察が「死体検案」を行うため、警察から「死体検案書」を発行してもらいます)。死亡診断書の発行には手数料が数千円かかります。また、ご遺体をきれいにするための死後処置料等もかかります。そして、最寄りの役場に死亡届を提出に行きます。死亡届は「死亡を知った日」から7日以内に提出する必要があります。また、この時に「死体火葬許可交付申請書」を記入して、「火葬許可証」を発行してもらいます。この許可をもらわないと火葬ができません。なお、この手続きは葬儀屋に依頼することも可能です。


②年金受給停止の手続き

被相続人の死亡後10日以内に、年金受給停止の手続きと未払い分の請求を行います。社会保険事務所か、役場の国民年金課が窓口となります。現在のところ、死亡届を役場に提出しただけでは年金の受給停止手続きは行われていないようです。なお、条件を満たせば遺族年金が支給されるケースがありますので、担当の窓口に確認をするとよいでしょう。


③相続財産の調査

相続財産の調査を行います。この調査が非常に手間と時間がかかります。故人の持ち物、財産を確認するわけですから、手掛かりがないと調査のしようがありません。

そこで、主な相続財産調査の手掛かりとなるものとしては、下記のようなものがあります。


・遺言書

・財産目録

・被相続人の通帳

・金融機関から届いている書面等

・カード会社の請求書の引き落とし履歴

・権利証など現金以外の財産


この中でも、遺言書と財産目録はとても重要です。誰にどの財産を相続させる(もしくは遺贈させる)かを、明確に記しておいてあれば、相続のトラブルはある程度未然に防ぐことができます。ですから、できる限り弁護士と相談して生前の対策をされることをおすすめします。


なお、この際に、被相続人が誰かの連帯保証人になっていないか、あるいは被相続人の連帯保証人に相続人がなっていないかも確認しておくとよいでしょう。なぜなら、被相続人が第三者の連帯保証人になっている場合、その第三者が破産するなどすると、請求が相続人にやってきます。ただし、この場合は後述の相続放棄ができる場合があります。一方、相続人が被相続人の連帯保証人になっており、請求が来た場合には相続放棄により保証債務を免れることはできません。その場合は債務を支払うか、相続人が債務整理を行うなどして対応する必要が出てくる場合がありますので注意が必要です。


④銀行口座の凍結

そもそも相続財産は被相続人がなくなった後は、相続人共有の財産ですので、勝手に使ったり、処分したりしてはいけません。


被相続人が死亡した場合、その方の銀行口座は凍結されます。この銀行口座の凍結は死亡届を提出したからといって、自動的には行われません。銀行に出向いて手続きをする必要があります。財産を勝手に引き出して使ってしまったり、隠匿されたりすることを防ぐ目的があります。逆に凍結することで、相続人間のトラブルを防止しているのです。


もし、勝手に預金等を引き出して使ってしまったりすると、後述する相続放棄ができなくなるケースもありますし、相続人間で不審を招いたりトラブルになったりすることが多いため、注意が必要です。


ただし、葬儀費用等が必要な場合など、預金を引き出すことについて認められるケースがありますので、不明点は弁護士までご相談ください(葬儀屋の請求書等のほか、被相続人と相続人の戸籍謄本や除籍謄本、印鑑証明など、必要となるものが多数あります。一方、遺言書があり、遺言執行者も決まっていれば、スムーズに段取りが運ぶことが多いです。予め弁護士に遺言執行者を任せる生前対策をしておくことがとても大切なのです。)


⑤相続人の調査

誰が法定相続人なのかを、きちんと戸籍謄本・除籍謄本を使って調べます。家族のことだからわかっていて当たり前とは限りません。家族のだれもが知らない隠し子がいたり、亡くなっていると教えられていた兄弟姉妹が後になって存命であることがわかったりすることもあります。ですから、ここでしっかり調べて確定させる必要があります。


法定相続人が誰なのか、把握しておくことはとても重要です。また、その相続人にどれだけの財産が法的に相続されるのか、つまり法定相続分についてもおさえておく必要があります。

なお、戸籍の収集は弁護士などでも「職務上請求」という特権により可能です。弁護士に依頼して代行してもらうとスムーズに行えて便利です。


⑥遺言書の確認と検認

遺言のページにて詳細はご説明しますが、遺言書には様々な形式があります。「公正証書遺言」と呼ばれる公証役場で検認された正式な遺言書であれば問題ないのですが、「自筆証書遺言」と呼ばれる一般的な遺言書の場合、その遺言書を勝手に開封してはいけません。勝手に遺言書を開いてしまうと、その遺言書の改ざんや隠匿などを疑われることになり、トラブルを招きます。また、遺言書として認められなくなってしまうケースもあります。そこで、法定相続人全員が集まって裁判所で「検認」という確認作業を行います。「検認」とは、①相続人に対して遺言の存在と内容を知らせること、②遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防ぐ手続きです。


ここで、遺言書に疑念が発生することもあります。特に、被相続人が認知症等の病気を抱えていた場合などでは、「遺言能力」を問われます。本当にはっきりとした意志をもって遺言をしたのかどうか、本人の意思で書いたのか、誰かに騙されたり偽造されたりしていないかなど、疑いの目を向けられるケースがあります。そうしたトラブルを防ぐためには、予め正式な手続きを経て上述の公正証書遺言を用意したりするなどして、万全の対策を打っておく必要があります。逆に他の相続人に有利な遺言書が出てきておかしいと思った場合は、その遺言書について争うこともできます。いずれにせよ、弁護士の助けが必要となるでしょう。


最終的に正しい遺言書が確認されれば、それに沿って遺産分割が進められます。


⑦相続放棄

相続放棄についての詳細は、相続放棄のページにて解説しますが、相続の開始を知った時から3カ月以内にこの相続放棄の手続き(家庭裁判所に相続放棄の申述の申立を行う)をし、認められれば、「もとから相続人ではなかった」という扱いになります。つまり、被相続人の借金などのマイナスの財産を相続する必要がなくなるのです。


もし、何もしなければ、「単純承認」として、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も相続することになるのですが、「相続放棄」を行うことで、親の借金を引き継ぐといったことを防ぐことができます。


ただし、相続放棄をすれば、プラスの財産も相続することはできませんので、現金や預金だけでなく、家などの不動産も相続できず、家を出なければならなくなるケースがありますので注意が必要です。


また、相続放棄はれっきとした法的手続きです。「相続を放棄する」と家族に一筆書いただけでは無効となります。きちんと家庭裁判所での手続きを経なければなりません。でないと、債権者から請求がきた場合、債務を支払わなければならなくなるケースがあります。


相続放棄の手続きは弁護士に依頼することが可能です。弁護士と相談して判断するとよいでしょう。


⑧限定承認

限定承認と呼ばれるプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた分だけ限定して相続するという方法もあります。こちらも相続放棄と同様、相続の開始を知った時から3カ月以内に手続きが必要です。


ただし、相続人全員が限定承認を行う必要があり、更に相続財産によってはみなし譲渡所得税が発生する可能性があります。被相続人の債務がいっそう膨らんでしまうことがあるため、あまり選択されない傾向があります。


⑨準確定申告

相続開始後4カ月以内に、被相続人の死亡した年の分の確定申告(準確定申告といいます)を相続人全員で行います。


⑩遺産分割協議

遺産分割協議を相続人全員で行います。基本的には、相続人全員の総意、法定相続分を基準とし、遺産分割を行います。


この際、相続分を巡って、あるいは相続するもの(現金・預金であったり、不動産であったり)によっては相続人間でトラブルが発生しやすいです。ですから、弁護士に予め相談しておき、話がまとまりやすいように準備をすることが大切です。

場合によっては、意見が合わないまま、遺産分割調停や審判、裁判になるケースもあります。


⑪名義変更

遺産分割協議や遺産分割調停、審判、あるいは裁判でまとまった結果をもとに、銀行口座や動産・不動産の名義変更、登記を行い、事実上相続が完了します。


⑫相続税の納付

相続開始後10カ月以内に、相続人は相続税を納付します。この10カ月というのは長いようで実は非常にタイトなスケジュールとなります。相続税は納付期限内であれば、様々な控除項目があります。しかし、期限を過ぎてしまうと延滞税等がかかったり、控除を受けられなくなったりして納付額が高額になります。


遺産分割協議が順調に進めば良いのですが、トラブルが起きて相続税の納付が間に合わなくなるケースも多いです。するとさらに相続人同士でもめることになります。ですから、早い段階で弁護士に相談し、相続の流れを把握したうえで一つひとつの手続きを進めていくことが求められます。


当事務所でも相続の流れをご説明しながら遺産分割のお手伝いをいたします。まずはお早めにご相談ください。

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相続人とは

相続が発生した際、遺産を引き継ぐことができるのは誰でしょうか。法的に定められた遺産を引き継ぐことができる人のことを、法定相続人と言います。そして、故人(被相続人)から見た家族関係により、下記のように相続順位が決められています。


相続順位法定相続人
いれば常に配偶者
第一順位①     子供、②孫(子供が亡くなっている場合)、・・・となる直系卑属
第二順位①     両親、②祖父母(両親が亡くなっている場合)、・・・となる直系尊属
第三順位①     兄弟・姉妹、②甥・姪(兄弟・姉妹が亡くなっている場合)


具体例については下記PDFファイルをご確認ください。

相続分とは

法定相続分とは、それぞれの法定相続人が、相続によって受け取ることができる財産の割合のことです。

まず、基本的な考え方は下記のようになります。


相続人法定相続分
配偶者のみ配偶者:全額
配偶者と子配偶者:2分の1、子:2分の1
配偶者と直系尊属(親)配偶者:3分の2、直系尊属(親):3分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1
直系尊属(親)のみ直系尊属(親):全額
兄弟姉妹のみ兄弟姉妹:全額


具体例については下記PDFファイルをご確認ください。

遺留分とは

民法では、最低限の相続分として、「遺留分」が認められています(民法1028条)。遺留分は、相続人が直系尊属のみの場合は被相続人の相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1と定められています。


※なお、この遺留分は被相続人の兄弟姉妹には認められていませんので注意が必要です。


例えば、遺言で「財産は全て子供Aに相続させる」とあった場合、配偶者や子供Bにとっては、譲り受けられる相続分がなくなってしまいます。この場合、最低限相続できる分として、全相続財産の2分の1は、「抽象的遺留分」として保護されるので、配偶者は(2分の1)×(2分の1)=4分の1を、子供Bは、(4分の1)×(2分の1)=8分の1を「具体的遺留分」として請求することが可能です。


また、遺言で「財産はすべて愛人のCに遺贈する」とあった場合、仮に相続人が両親二人のみの場合は、抽象的遺留分が3分の1ですから、愛人Cに対して具体的遺留分として、それぞれの法定相続分の3分の1、すなわち相続財産の6分の1ずつを請求することができます。


このように、遺留分を主張できる、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(代襲相続人含む)は、「遺留分権利者」として保護されているのです。


逆に遺言書を用意する場合、この遺留分に注意する必要があります。仮に、特定の相続人に財産を多めに渡したいと考えた場合、その他の相続人の遺留分を侵害しない程度に抑えることで、遺留分を主張されて遺言の効果がなくなるのを防ぐようにするとよいでしょう。

遺留分減殺請求

①遺留分減殺請求とは

遺留分を具体的に主張するにはどうすればよいのでしょうか。何もしなければ、遺留分があるからと言っても誰も保護してはくれません。被相続人の遺言のままに相続や遺贈が行われてしまいます。そこで、「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」を行う必要があります。


口頭で遺留分を主張してもよいのですが、証拠が残らず、後で問題となりますので、普通は内容証明郵便を使い、遺留分減殺請求権として行使することが一般的です。この意思表明がとても大切です。具体的な遺留分相当額がわからなくても、遺留分減殺請求件を相手方に行使することができます。なぜなら、遺留分減殺請求は、意思表示を行えばよく、具体的な財産については明示する必要がないためです。そして何より、遺留分減殺請求には期限があるためです。


②遺留分減殺請求の期限

遺留分減殺請求の期限は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間、もしくは相続の開始から10年間と定められています。ですから、例えば被相続人の死亡を数年間知らされていなかった場合などでは、その事実を知った時から1年以内であれば、行使することができ、遺産分割協議のやり直しを求めることもできます。


③遺留分減殺請求調停と裁判

相手方(遺留分を侵害するような相続分を得ようとしている相手)に対して減殺請求権を行使しても、相手方が素直に応じないことがあります。この場合はたいてい家庭裁判所に対して調停を申立てることになります。そして、調停の場でも決着がつかない場合は、裁判へと進んでいきます。


④遺留分を侵害されたら

遺留分を侵害されるような遺言が発見されたり、遺産分割が実行されたりしそうになったら、速やかに弁護士にご相談ください。そして、期限が来る前に、遺留分減殺請求権を行使します。そして、具体的な遺留分算定を行い、調停、裁判へと進んでいきます。ですから、弁護士のサポートが必要となります。

特別受益とは

仮に、二人の兄弟が2000万円の預金を遺した親の相続権を得たとします。長男Aは高校を卒業した後働き、自分で得た収入をもって生活をしていました。一方、次男Bは親の仕送りをもらって大学まで進み、またBは親から生前に住宅資金として多額の贈与を受けていたとします。そうすると、法定相続分としては、長男Aが2分の1、次男Bも2分の1だと不公平感があります。


そこで、特別受益という考え方が登場します。特別受益は民法903条などに規定されています。次男Bが親から受け取っていた様々な財産を含めた額が総遺産総額だと考えます。特別受益として600万円が認められれば、総遺産総額は2600万円となり、これをA,B二人に配分することになります。長男Aは1300万円を相続することができます。一方、次男Bは既に600万円の特別受益を受け取っているので、残りの700万円を相続できます。こうすることで、 不公平感を取り除くのです。ここで、次男Bは特別受益者と呼び、このような計算を特別受益の「持ち戻し計算」と言います。


仮に親がこの特別受益のことを知っており、それでも敢えて長男・次男に等分して相続させたいという旨の遺言を遺した場合は、遺留分を侵害しない範囲でこれが認められます。具体的には、長男Aに1000万円、次男Bに1000万円に600万円相当の特別受益の贈与を加えた1600万円になったとしても、長男Aの遺留分は侵害しませんので、有効です。このような特別受益を考慮しない意思を示すことを「持ち戻し免除の意思表示」と言います。


なお、仮に特別受益が600万円ではなく3000万円だった場合はどうでしょうか。総遺産総額は5000万円となり、長男Aの相続額は2500万円となりますが、500万円足りません。しかし、その場合、次男Bは長男Aに財産を支払う必要は無いとされています。ただし、次男Bの相続分はゼロとなり、2000万円全額を長男Aが相続する形になるでしょう。

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寄与分とは

一方、民法904条の2項には、寄与分という考え方も記載されています。


仮に二人の兄弟が親の相続人となり、遺産総額が2000万円であったとき、長男Aは離れて暮らしていたためほとんど親の面倒を見ず、介護もしなかったが、次男Bは親の事業を手伝い財産を増やすことに尽力し、そして老後には介護に尽くしたとします。この場合のように、財産の増加に特別の働きをしたり、療養看護にあたったりしたケースなどでは、その相続人の働きの評価額を「寄与分」として評価し、相続に反映することがあります。遺産分割協議でその寄与分が600万円に相当すると判断された場合、総遺産総額から寄与分を差し引いた1400万円をみなし相続財産とし、寄与相続人には寄与分をプラスすることになりますので、長男Aの相続分は700万円、次男Bの相続分は700万円に寄与分600万円を加えた1300万円となります。


なお、ここで寄与分をみなし相続財産以上の額に算定することはできないとされています。具体的に言えば、ここで寄与分を1400万円以上の額にすることはできないということになります。

遺産分割の種類

遺産分割を行う際、全ての遺産が現金であれば、比較的簡単に分割することができます。もちろん、特別受益や寄与分なども考慮すると複雑にはなりますが、それぞれの相続人の相続分が確定すれば分割は容易です。


しかし、遺産分割においてトラブルの発端となりやすいのが主に不動産です。土地や建物などの不動産は簡単に分けることが難しく、遺産相続を機にそれまで住んでいた家を手放し、出ていかなければならなくなるケースさえあります。


仮に、長男Aと次男Bが遺産を相続する際に、どのような考え方で遺産分割をすることができるかを紹介します。


①現物分割

現物分割とは、実際にあるものをそのまま相続人に分けてしまう方法です。


例えば、長男Aが土地と建物を相続、次男Bが現金、預貯金を相続するといった場合です。このとき、


メリット:分けやすい、明確

デメリット:不公平感が残る、価値として平等に分けにくい


といった点があります。


②換価分割

家や建物などの不動産を売却して現金化します。そして、あくまで現金で法定相続分ずつ分けます。これを換価分割といいます。


例えば、不動産1億円相当を売却し、預貯金・現金4000万円と合わせて1億4000万円とし、長男A、次男Bそれぞれが7000万円ずつ相続するという方法です。このとき、


メリット:平等に分けられる

デメリット:わざわざ不動産を売却し手放す必要がある、売却に仲介料など費用がかかり、時間もかかる


といった点があります。不要となった不動産であればこの換価分割も可能ですが、今現在住んでいる不動産を手放さなくてはならず、現実的ではないケースが多いです。


③代償分割

①と②の折衷案のような形になりますが、不動産の価値を算定しておいてそれぞれ相続し、価値に差がある場合は現金を「代償金」として支払い、穴埋めする方法です。


例えば、不動産価値が1億円で、預貯金・現金が4000万円とした場合、長男Aが不動産、次男Bが預貯金・現金を相続し、その差額6000万円の半分3000万円を長男Aから次男Bに代償金として支払うことになります。すると、長男Aも次男Bも7000万円相当の評価額を相続することになります。このとき、


メリット:不動産を手放すことなく平等に分けられる

デメリット:代償金として多額の現金を用意するのが大変


となります。


上記の通り、代償分割にもデメリットがあり、代償金を用意するのがネックとなります。そこでよく用いられるのが「生命保険の返戻金(へんれいきん)」です。生命保険を解約したときや満期になったときに降りるお金のことですが、被相続人の生命保険金は相続財産ではなく、かつ相続発生時に生じる財産ですので、「見なし相続財産」として扱われます。ですから、受取人として指定された人の固有の財産となります。そこで、生命保険金の受取人が不動産を相続し、代償金を返戻金から支払う形にするという方法がよく取られます。予め被相続人の生命保険金の受取人が誰になっているのかを確認しておくことが大切です。


このように、様々な方法で遺産分割をすることができますが、特に不動産が絡む遺産相続にはトラブルが起こりやすいです。生前対策をしっかりするとともに、相続が発生したら慌てず、しかし早めに弁護士に相談するとよいでしょう。


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遺産分割協議

相続人全員が集まって行う遺産分割の話し合いが遺産分割協議です。この遺産分割協議において、まったくもめずに話し合いが終了し、遺産分割協議書の作成まで進めば良いのですが、法定相続分、遺言、遺留分、特別受益、寄与分など、様々な要素を加味しつつ、大変分けにくい不動産も゛公平に“分割する必要があります。ですから、トラブルになるケースが多々あります。


全ての相続人が、納得いくまで話し合い、相続税の納付期限までに結論を出す必要があります。そのためには、きちんとした手続きをとることも大切です。


もし相続人の中に未成年者がいる場合は、必ず親権者(法定代理人)が代わって遺産分割を行います。ただし、親であればいいというわけでもなく、利益相反行為にあたる場合は無効となってしまうため、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。特別代理人は利益相反行為にあたらない別の親族になるケースもありますが、弁護士に依頼するとよいでしょう。


また、口頭で済ませると、言った、言わないの水かけ論になりかねないですので、きちんとした文書にまとめる必要もあります。そこでまとめる文書というのが「遺産分割協議書」です。なお、銀行口座の凍結について、遺産相続のページの「相続発生後の流れ④銀行口座の凍結」の項で触れた、一度凍結された口座の引き継ぎ手続きをする場合や、不動産の名義変更手続きをする場合などにはこの遺産分割協議書が必要になります。


遺産分割協議書には自署のほかに実印による押印、印鑑証明書の添付なども必要になります。前もって準備する必要があります。


なお、遺産分割協議書に記載する相続財産目録は、漠然とした書き方では後で問題になりかねません。


預貯金であれば口座名と金額、不動産であれば住所のほかに面積(地積)や建物の構造、床面積も必要ですし、盲点なのが残された家財道具などです。一点一点細かく書く必要は無いですが、「家屋内の家財・家具、一切の財産」などと記載し、所有を明らかにすることが多いです。不動産については予め評価額についても調べてもらう必要があります。


このように、一般の方では簡単に書くことが難しいのか遺産分割協議書です。トラブルを抱えそうな場合は相続税納付の期限がありますので、なるべく早めに当事務所の弁護士にご相談ください。

遺産分割調停

実際に遺産分割に際してトラブルになった場合はどうしたらよいのでしょうか。遺産分割協議が不成立に終わった場合、家庭裁判所において、遺産分割調停を申し立てることができます。調停においても、基本的には調停員たちを入れての話し合いとなります。そして、意見の一致を見ることができるよう、何回か調停を繰り返します。最終的に話がまとまれば、「調停調書」を作成します。そしてこの通りの遺産分割が実行されます。


しかし、ここまで来ても話し合いがまとまらない場合、遺産分割審判へと移行します。審判では、審判官(裁判官)が最終的な審判を下します。これが確定すれば、裁判と同じように法的拘束力を持ちます。


もしも、更に不服が残る場合には、審判書を受領した後、2週間以内に高等裁判所に不服申し立てをすることも可能です。

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相続放棄

相続放棄とは


相続が発生した際、相続人が選ぶ選択肢は下記の三つとなります。


単純承認(相続)

相続放棄

限定承認

相続放棄とは、単に、相続できる財産をもらわないことではありません。もとから相続人でなかったことにするという法的な手続きです(民法939条)。その結果、プラスの財産もマイナスの財産(借金や不要な土地など)も相続しなくて済むようになります。逆に、借金を相続しないだけでなく、そのほか一切の相続権を放棄することになるため、住んでいた家が被相続人の相続財産であった場合、出ていかなければならなくなるケースがありますので、注意が必要です。


また、法定単純承認と呼ばれる相続行為があった場合、相続放棄が認められなくなり、結果として借金を背負わなくてはならなくなるケースもあります。例えば、形見受けだと言って、高額な財産を多数引き継いだり、相続財産の一部を処分したり、あるいは遺産分割協議に参加してしまったりすると、相続人としての行為をしたと見なされ、相続放棄が認められなくなるケースがあるのです。


何が相続財産の処分に該当するのか、という点は様々な判例もあり、複雑ですので、詳細は当事務所の弁護士までご相談ください。


一方、限定承認と呼ばれる方法もあります。

この限定承認は、プラスの財産からマイナスの財産(債務や遺贈しなければならないもの)を差し引いたときに、残りがあればその分に限定して相続するという方法です。この限定承認を用いれば、もし財産の残りがマイナスになってしまった場合には、相続をしなくても良いというメリットがあります。


一見、この限定承認が最も合理的な相続方法にも思えますが、下記のようなデメリットがあるため、あまり選択されない傾向があります。


・相続人全員が限定承認を行う必要がある

相続人のうち、一人でも単純承認をした場合にはこの限定承認をとることはできません。足並みをそろえる必要があります。(なお、相続放棄した相続人がいた場合は、その人は相続人ではなかったことになるため、限定承認を行うことはできます。)


・相続財産によっては譲渡所得税が発生する可能性がある

限定承認の際には、被相続人から相続人への「譲渡」があったと見なされるため、時価に相当する譲渡所得税が相続人にかかる場合があります。そのため、マイナスの財産がいっそう膨らんでしまう形になります。


・相続財産目録の作成や債権者への弁済などの手続きが煩雑

特に、債権者への弁済の事務処理が大変です。限定承認も、家庭裁判所に対して申立をする必要があります。期限は3ヵ月です。もし限定承認をご検討の場合は、弁護士に早めにご相談されることをお勧めします。


これらを踏まえて、相続人は期限内に「単純承認」、「相続放棄」、「限定承認」を選択しなければなりません。

相続放棄の期限と手続き

相続放棄を行うことができる期限は、相続の発生を知った時から3カ月以内です。この3カ月のことを「熟慮期間」と呼びます。この熟慮期間の間に、相続(法定単純承認)をするのか、あるいは相続放棄をするのかを決めることになります。


被相続人が亡くなってから間もないため、あっという間にこの熟慮期間は過ぎてしまいます。熟慮期間を経過してから慌てて相続放棄をしようとしても認められないケースがありますので、注意が必要です。


①熟慮期間の延長申請

相続放棄の熟慮期間が3カ月であることは上述の通りですが、相続発生後、被相続人の債務状況がよく分からない、金額の確定に時間がかかるなど、理由がある場合には、この熟慮期間である3カ月以内に家庭裁判所に対して「相続の承認・放棄期間伸長申述書」を提出し、期間伸長を申立てることができます。申立てが認められれば、だいたい3カ月程度の延長が認められます。


手続き自体は誰でも出来るのですが、弁護士に依頼すれば代理してもらうことが可能です。


②熟慮期間が過ぎてしまったら

相続放棄の熟慮期間は3カ月であることは上述の通りですが、様々な理由により、この3カ月が過ぎた後に債務の状況が明らかになるケースがあります。つまり、被相続人の死後3カ月以降に借用書が見つかったり、金融機関からの督促が届いたりするなどして借金が見つかるケースもあります。


こういった事情がある場合には、救済措置がありますので、あきらめず弁護士にご相談いただきたいです。


あくまで、相続放棄の期限は相続の開始があったことを知ったときから3カ月ですが、例外として、熟慮期間の「起算点」が「相続財産の全部または一部の存在を相続人が認識したとき」と、ずらして認められるケースがあります。つまり、被相続人の想定外の借金が発覚した時を起算点に3カ月とすることができる可能性が残されているのです。これは昭和59年の最高裁判決を根拠にしており、「相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情」がある場合などで、その理由が認められれば、事実上熟慮期間の期限を延ばしてもらうことが可能です。


ただし、一般の方が簡単に相続放棄申述書を書くだけでは認められない場合もありますので、このケースは特に、弁護士にご依頼いただくことをお勧めします。


③相続放棄は一度きり

相続放棄の手続きは一度しかできません。例えば、3カ月を過ぎた相続放棄の申述申立をした場合に、その申述が認められず却下されるケースもあります。すると、相続放棄は1度きりですので、そのままにしておくと被相続人の借金を背負うことになります。その際には、却下の2週間以内に高等裁判所に対して即時抗告を行うことができます(家事事件手続法201条、86条より)。


ですから、相続放棄は確実に行うべきであり、相続放棄に強い弁護士に依頼することが望ましいです。


司法書士でも相続放棄手続きを受け付けていますが、即時抗告となると自分で手続きをしなくてはならないため、初めから弁護士に依頼した方が賢明だといえるでしょう。

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債権者対応

相続放棄をしたり、検討したりしていても、被相続人に対する債権者(金融機関など)はその事実を知りませんので、督促を続けてくる可能性があります。

相続放棄をした後であれば、弁護士に依頼していれば代理人として弁護士が連絡をしてくれますので、安心です。

相続放棄を検討している最中に督促が来たときに、安易に一部でも返済をしてしまうと、法定単純承認の行為とみなされ、相続放棄ができなくなる場合があります。督促があっても応じず、すぐに弁護士にご相談ください。そして、適切に相続放棄の手続きをとることで督促の矢面から逃れることができます。

一方、司法書士に相続放棄を任せてしまうと、この債権者対応ができません。なぜなら司法書士は「代理人」としての身分ではありませんので、請求拒否や相続放棄手続きが通った場合の債権者への連絡などは法律上認められていません。そのため、ご自分で債権者対応をしなければならなくなります。ですから、相続放棄は必ず弁護士に依頼すべきと言えるでしょう。

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