取り扱い分野The FIELD OF HANDLING

交通事故

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1.人身事故の流れ

交通事故で不幸にも人身事故に遭ってしまった場合、様々なケースがありますが、下記の図のような流れになることがあります。


交通事故が発生した後、治療・通院を行います。その後、症状固定と呼ばれる治療がひとまず終わる段階がきます。これ以上治療を継続しても回復が見込めないという段階を指します。後遺障害が残ってしまった場合は、医師により後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害認定を受けます。それをもって、示談交渉を行います。示談が成立に至らない場合には訴訟の提起をすることになります。

この流れを先ずは押さえてください。

交通事故1

2.人身事故に遭ったら

交通事故に遭われた場合、①必ず行うべき手順②心得ておくべきこと、があります。


①必ず行うべき手順

1.警察への連絡

安全を確保しつつ、警察に連絡をします。痛みがすぐに出ない、小さな怪我だとしても、必ず事故後には警察に連絡をする必要があります。後から痛みが出てくることが多い交通事故の後遺障害を念頭においています。また、事故後のトラブルを回避するために、「実況見分調書」を記載してもらう必要があるためです。更に、警察が来て初めて「交通事故証明書」が発行されるのですが、この交通事故証明書がないと任意保険会社は補償をしてくれないことも多く、示談交渉にも大きな影響が出ます。ですから必ず警察を呼ぶようにしましょう。


なお、加害者は警察を呼ぶ義務が法律で定められています。これを怠ると罰せられるケースがあります。加害者側が応じない場合には、もちろん被害者側が警察を呼んでも構いません。交通事故後には必ず警察に連絡をするようにしてください。



2.保険会社に連絡を入れる

自分が加入している任意保険会社などに連絡を入れます。その際、相手方が加入している任意保険会社や自賠責保険についても確認をしておきます。もし聞くことが出来なかった場合は、前出の「交通事故証明書」を取得すれば確認することが出来ます。その後は、基本的には保険会社の間で、示談交渉が進むことになります。


なお、ここで自分の保険に「弁護士費用特約」が付帯しているかどうか、確認をしましょう。弁護士費用特約とは、交通事故の被害に遭った際、弁護士に示談交渉を依頼する際の弁護士費用を、保険会社が負担してくれるというもので、最近では多くの場合付帯しています。ケースによりますが、概ね300万円まで弁護士費用をまかなってくれるので、とても重宝します。多くのケースで弁護士費用が実質的にかからなくなるため、大変おすすめです。弁護士費用特約が使用できるかどうかも含め、保険会社に連絡を入れましょう。



3.病院へ行き診察を受ける

これがなかなかできないケースがありますが、交通事故に遭ったら、必ず診察を受けるようにしてください。救急車で搬送されるケースで無い場合も、病院には行くようにしましょう。そして、診断書を医師に書いてもらいます。理由は、そのときに痛みが無くても、また大したケガではないと思っていても、後から神経症状が麻痺したり、関節の可動域が狭くなったり、あるいは脳震盪などの影響で目には見えなくとも脳や脊椎に損傷を受けたりしているケースがあるためです。まずはあなたの身体を大切にしてください。そして、正確な診断を早期に受けてください。後々、後遺障害の認定や慰謝料請求など、損害賠償額に大きな影響を及ぼすことも多々あります。必ず病院へ行き、診察を受けて適切な治療を受けられるようにしてください。



4.弁護士に相談する

これは早い段階が良いのですが、交通事故の被害に遭った場合、加害者側から様々な形で損害賠償を受けるために、弁護士に相談すると良いでしょう。


交通事故の場合、実際にかかった入通院治療費、付添看護費、入院雑費、交通費など(「積極損害」と言います)が発生します。また入通院慰謝料、後遺障害が認定されれば後遺障害慰謝料、後遺障害の逸失利益、休業損害など(「消極損害」と言います)も発生します。これらの損害を正確に算定したり、請求したりするのは一般の方では難しくて不可能です。ましてや事故の怪我や後遺障害で苦しいときには更に難しいでしょう。ですから、こういった示談交渉や損害賠償請求に関わることは法津のプロである弁護士に依頼することが大切になるのです。




②心得ておくべきこと

1.その場で示談しない!

加害者が警察には連絡しないで欲しいとか、示談をしたい、慰謝料は払うから警察には連絡しないで欲しいと言ったとしても、決して応じてはいけません。示談は契約行為です。軽く念書だと思って一筆書いてしまうと、その後に後遺障害が発症したり、損害賠償請求をしたりしようとしても、その示談書を覆すことは至難の技です。後から痛みが出たりしても治療費を自分で捻出しなくてはならなくなります。ですから、紙切れであったとしても、その場で安易に示談に応じてサインしてはいけません。



2.必ず病院(整形外科など)で診察を受けること!

交通事故被害者の方によっては、安易に整骨院だけに通う方、忙しさを理由にどこにも通院しない方がおられます。しかし、それでは後から痛みが生じたり、後遺障害が発生したりしても、後遺障害認定を受けるために必要な診断書が手に入りません。整骨院は病院ではなく、また施術者も医師ではないため、診断書を書くことが出来ません。柔道整復師であっても、医師ではありませんから注意が必要です。ですから、しっかり治療をうけるべく、病院(整形外科など)で診察を受けてください。必要に応じて精密検査も受け、事故による後遺障害であり、既往症や事故と無関係なケガではないことを立証することも必要です。弁護士に相談することで、診断書のポイントを医師に伝えやすくもなりますので、弁護士と相談しながら病院に通うことをおすすめします。その上で、症状を和らげるために医師の許可を得た上で整骨院に通う分には問題ないでしょう。


また、治療もしっかりと受ける必要があります。忙しい社会人の方、受験生の方の場合は特に、長い期間休んでいることにためらいがあり、治療を継続せず途中で病院に通わなくなったり、仕事に復帰してしまったりするケースがありますが、これは治療の観点からはもとより、後々の示談交渉・慰謝料請求にも大きな影響を与えます。仕事が出来るのだから治療はもう必要ないと見なされてしまうこともあります。そうすると、「症状固定」を主張され、治療費の打ち切り、早期の示談成立をせかされることにつながります。ですから、慌てずにしっかりと適切な治療を受け続ける必要があります。



3.弁護士に依頼すると示談額(慰謝料額など)が増額する!

弁護士に相談する大きな理由はこの点です。加害者に保険会社がついている場合、保険会社には保険会社の基準がありますが、弁護士が介入した場合にはこれまでの判例をもとにした慰謝料額などの基準に基づき賠償額を判断するため保険会社の基準と異なる場合があります。そのため、弁護士基準(裁判基準)による慰謝料額などを請求するべく、早い段階から弁護士にアドバイスをもらうことが大切です。

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3.過失割合について

横断歩道を青信号で横断歩道を渡っていて、赤信号のはずの車にはねられてしまった事故の場合、「過失」は車側に100%あるため、歩行者の「過失割合」は0%となります。つまり、「歩行者」対「車」の過失割合は0:100となります。


しかし、歩行者が黄色信号、あるいは横断歩道の青色点滅信号の時に、赤信号のはずの車にはねられてしまった事故の場合はどうなるでしょうか。この場合も、勿論赤信号を通過して事故を起した車側の「過失」が高いことは否めませんが、歩行者側にも問題が少なからずあります。この場合一般的には、歩行者の過失を10%認め、車側の過失を90%とします。すなわち、「歩行者」対「車」の過失割合は10:90となります(判例タイムズ参考)。


このようにして、交通事故が起きたときに、必ずしも加害者が100%悪いわけではない場合、「過失相殺率」を計算した「過失割合」を考慮し、被害者にも一定の過失を認めるケースが多々あります。そのため、加害者側は過失割合の適用を主張して、過失を減らそうとしてくるケースがよくあります。つまり、被害者にも過失があるのだから、慰謝料は減らすという主張です。


また、過失割合は事故の状況や、被害者と加害者がどういう状態だったか、周りの状況など、様々な要因により変わるもので、簡単に決められるものではありません。にもかかわらず、もし警察に通報しておらず実況見分調書が作成されていなければ、過失割合を決定する証拠がなくなりますし、加害者の一方的な意見で被害者に対し過失を認めさせてしまった場合にはこの過失割合を覆すことはなかなか容易ではなく、後々大きなトラブルとなるケースがあります。ですから、どちらがどのくらいの過失があるのか、客観的・正統的に判断するには、弁護士が入る必要があるのです。弁護士は判例に基づき、その交通事故のケースに適切な過失割合を主張することができます。


この過失割合は、どちらが悪いか、だけでなく、損害賠償額の決定にも大きな影響を与えます。例えば、1,000万円の損害賠償事件において、歩行者の過失割合を50%から20%に減らすことが出来たとすると、単純計算で300万円も損害賠償額が変わってきます。加害者側から損害賠償をもらえなければ、治療費などは実費で賄わなければならないのですから、この過失割合の意味の大きさはご理解いただけると思います。事故直後には過失割合でもめたり、加害者側の一方的な言い分で過失割合を定められたりするケースもあるため、交通事故に強い弁護士が早い段階で被害者の過失を少なく立証する手助けをすることが、とても大切なのです。





【まとめ】

人身事故に遭った場合にすべきこと、心得ておくべきことがあります。その場で示談したりせず、警察・保険会社との連絡、病院に行き、医師による診察を受けてしっかり治療すること、弁護士に早い段階で相談をすることなどです。交通事故=弁護士というイメージをお持ちでない方も多いかも知れませんし、弁護士費用を気にされる方も多いかもしれませんが、交通事故に遭ったら弁護士に相談するということをここでは強く覚えていただきたいです。そうすることで、事故後の対応について専門的なアドバイスを受けることが出来るからです。弁護士費用については無料相談もありますし、弁護士費用特約を使うことで大幅な減額あるいは実質無料で相談することも可能なケースがありますので、チェックしておくとよいでしょう。

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4.症状固定について

①症状固定とは

交通事故に遭い、被害を受けた方の多くが通院をしたり入院をしたりします。そして、治療を受けるのですが、いくらそれ以上治療を受けても症状が変わらない状態になるケースがあります。例えば、むち打ちなどの症状を事故後発症し、痛みや不調が続くのですが、症状を和らげることが出来ても一時的で、完治が難しいと医師に診断されるケースがあります。この、「これ以上治療を続けても回復が難しいとされるとき」を、症状固定と言います。そして、この症状固定になるまでの治療費や通院費などを加害者側は負担することになります。


②症状固定と治療費打ち切り

しかし、被害者側からすると「まだ治療を続けたい」、「痛みがある」、と言う時点であっても、加害者側から症状固定を打診され、保険会社からの治療費を打ち切られてしまうケースがあります。すると、被害者はそれ以上の治療を受けることが出来なかったり、あるいは自費で治療を続けていかなければならなくなったりします。


そこで、ポイントは2つあります。正当な治療費を請求することが出来るよう、症状固定について医師としっかり話し合うこと、そして、まだ診療の継続が必要であることを診断書によって証明してもらうことです。その際、弁護士が間に入ると、どのようなポイントで診断書を記載してもらったらよいのかのアドバイスをもらえたり、保険会社とのやり取りにおいても窮することなく治療継続を主張したりすることが出来ます。


ここで注意しなければならない点が、「治療の継続」です。途中で仕事が忙しいからと言って治療を受けることを中断してしまったり、仕事に早期復帰してしまったりすると、症状の重さを適切に判断されなくなるケースがあります。すると症状固定が早まり、症状固定を保険会社が主張して、それ以降の治療費が支払われなくなることもあります。そして何より、身体的な負担により、後遺障害を後々かえって悪化させてしまうこともあります。ですから、「適切な期間の適切な治療」を立証できるよう、弁護士と相談しながら医師に適切な診断書を書いてもらうことが必要なのです。



【まとめ】

あくまで、症状固定を決めるのは加害者側の保険会社ではなく、医師ですので、医師の診断書が絶対となります。保険会社は被害者が負った症状により、ある程度の目安をもって症状固定を打診してきますので、実際にはそれよりも長く治療が必要となるケースは多いのですが、打診されたまま治療費を打ち切られ、経済的な支援が途絶えてしまう被害者が多いのも現実です。ですから、医師に治療の継続の必要性を認めてもらい、不用意に症状固定を早めることが無い様、弁護士のサポートを求めることをおすすめします。


こういった意味で、交通事故の案件を豊富に経験している当事務所であれば、交通事故被害者の方の味方としても、強力にサポートいたします。

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5.後遺障害認定について

後遺障害認定とは

不幸にも交通事故により、大きな怪我を負い、後遺症を受けた方もいらっしゃるでしょう。後遺症を受けた場合、「後遺障害認定」を取得するかどうかが大きなポイントとなります。後遺障害認定は、交通事故で受けた身体的・精神的なダメージが大きく、回復の見込みが無い状態として診断されたときに認定されます。


怪我の名前ではなく、その事故の結果受けた回復の見込みの無い症状の重さにより、大きく分けて14階級に分かれた後遺障害等級により区分されます。1~14級まであり、数値が少ないほど重い症状として認められます。



②後遺障害診断書の重要性

後遺障害認定は、医師が判断するわけではありません。あくまで、医師が作成した「後遺障害診断書」をもとにして、「損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)」が判定をすることになります。


とはいっても、後遺障害を受けた方が、損害保険料率算出機構に出向いて判定を受けるわけではなく、あくまで医師の書いた「後遺障害診断書」のみによって決定されます。ですから、医師とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、症状を伝えきれていなかったり、あるいは医師が後遺障害を受けるための診断書を書いてくれなかったりすると、正しい後遺障害認定を受けることができません。しかも時間の無い中ですので、何度もやり直しができるものでもありません。


ここで弁護士が力を発揮します。交通事故に強い弁護士であれば、医師に適切な後遺障害認定を受けるための後遺障害診断書を作成してもらうために働きかけることが出来ます。表現が難しく、あいまいになりがちな症状も、具体的に判例に基づいて後遺障害認定が受けられるよう、また、必要事項を書き漏らすことが無いよう、診断書をチェックすることが可能です。



③後遺障害認定が受けられなかった場合の申立

もし、適切な後遺障害認定が受けられなかった場合は、後遺障害等級認定結果に対する異議申し立ての手続きをとることも出来ます。この場合、弁護士と医師と相談し、より緻密な内容の診断書を作成してもらう必要があります。


④後遺障害に基づく逸失利益の算定

この後遺障害認定により認定された等級によって、後遺障害慰謝料や逸失利益(本来健康であれば受けられたであろう利益の差分)の額が大きく異なってきます。


例えば、同じむち打ち症と診断されても、後遺障害14級と後遺障害12級とでは、自賠責保険基準ですと、それぞれ32万円、93万円と約3倍にもなります(※示談交渉・慰謝料請求のページで解説しますが、弁護士が介入した際には、更に大きく異なり、後遺障害14級で110万円、12級で290万円と、なんと180万円も異なります)。同じ病名でも、症状が深刻であると医学的に認められれば、このように後遺障害等級が変わり、受けられる後遺障害慰謝料なども増額されるのです。


また、後遺障害による逸失利益についても簡単にご説明します。逸失利益は上述のように、本来健康であれば受けられたであろう利益の差分です。自賠責保険において後遺障害が非該当ということになっても訴訟において認められた判例もありますし、自賠責保険の認定よりも上級の等級が認められた判例もあります。



逸失利益は、一般に下記の式で表されます。

後遺障害逸失利益 =
一年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力の喪失期間に対するライプニッツ係数

ここで、基礎収入とは、事故にあったその方の収入を指しますが、「賃金センサス」の平均賃金より少ない場合は平均賃金が計算式に入ります。ここで、無職の方、例えば専業主婦や学生などの場合には、賃金センサスの平均賃金をもとに計算されます。(※専業主婦であっても逸失利益は認められます!)

次に労働能力喪失率についてですが、これは後遺障害等級の階級ごとに定められた数値で表され、下表のようになります。


後遺障害等級労働能力喪失率
1級100/100
2級100/100
3級100/100
4級92/100
5級79/100
6級67/100
7級56/100
8級45/100
9級35/100
10級27/100
11級20/100
12級14/100
13級9/100
14級5/100

 

ですから、例えば後遺障害等級が6級の場合、労働能力喪失率は、0.67と言うことになります。

最後に、ライプニッツ係数についてですが、詳細は割愛しますが、これは損害賠償額を一括で請求するために、公平性を維持する目的で行われる中間利息控除の処理の必要性から導入されている係数です。例えば、労働能力喪失率が10年の場合、ライプニッツ係数はおよそ7.72程度、20年の場合、ライプニッツ係数はおよそ12.46程度、30年の場合、ライプニッツ係数はおよそ15.37程度となります。

ここで例として、大卒の男性37歳の方が67歳までの30年間の労働能力喪失期間を認められた場合、基礎収入が5,360,400円(平成26年)ですので、後遺障害等級が6級ですと、

5,360,400×0.67×15.37=55,200,863円

となり、およそ5,500万円程度となります。

少し複雑でしたがいかがでしたでしょうか。逸失利益がかなりの高額になるケースがあると言うことがお分かりいただけたでしょうか。事実、慰謝料よりも逸失利益の額が多くなるケースもあります。そして、後遺障害等級によっても大きく逸失利益の額が異なることもお分かりいただけたかと思います。

※ただし後遺障害等級が低いときには、労働能力喪失期間が短めに認定されるケースがあります。


【まとめ】

後遺障害を負い、大変な中で、加害者側の保険会社とのやり取りをするだけでも大変です。なおのこと、重度の後遺障害を負われた方が、自分で後遺障害診断書のことを考え、立証していくのは不可能に近くなってきます。ですから、後遺障害認定に強い弁護士が介入し、適切な損害賠償を受け取れるようにすることが大変重要なのです。

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6.示談交渉・慰謝料請求について

①示談交渉と弁護士依頼

人身事故に遭った場合、示談交渉が行われますが、加害者側には保険会社がつきます。一方被害者側はどうでしょうか。基本的には自分で示談交渉をするか、もしくは弁護士に依頼して、代理交渉をしてもらうことになります。


重い後遺障害に遭われた方が示談交渉をまともにするのは身体的にも精神的にも大変な苦痛を伴うばかりか、法律の知識無しに有利に示談交渉を進めることはまず不可能です。


加害者側が仮に任意保険に入っていてた場合、その保険会社との交渉をすることになりますが、保険会社は加害者側の味方ですので、被害者の要求を全て認めてくれるとは限りません。加害者側の主張をされてしまい、被害者側が正当な主張をしても、なかなかうまくかみ合わないケースが多いのです。その上、相手は交通事故について詳しく、過失割合を主張したり、治療費を認めてくれなかったり、低めの示談金を提示したりといったことも可能なわけです。


ですから、交通事故の被害者になった場合、特に後遺障害を受ける可能性がある場合には、弁護士に依頼すべきです。そして、後遺障害の認定を受けられるよう、医師と弁護士と、よくコミュニケーションを取ることが必要です。



②慰謝料請求について

交通事故における慰謝料には、1.傷害慰謝料、2.後遺障害慰謝料、3.死亡慰謝料の三つがあります。


1.傷害慰謝料

傷害慰謝料とは、交通事故により受けた傷害のため、病院や整骨院などに通院したり入院したりしたことに対して支払われる身体的・精神的な被害に対する慰謝料です。入通院慰謝料とも呼びます。


傷害慰謝料は、原則として入通院期間に応じて算出されますが、これについても弁護士が介入した場合の弁護士基準(裁判基準)と任意保険の算定と異なることがあります。


弁護士が示談交渉をする場合には、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する、いわゆる「赤本」を参考にしますが、これには入通院慰謝料別表Ⅰというものがあります。この表を参考にしつつ、症状や治療上の苦痛度合いなどを勘案して具体的な慰謝料額を算出しますが、別表Ⅰによりますと、通院1ヶ月の場合は280,000円程度の慰謝料、通院2ヶ月の場合は520,000円程度の慰謝料、1ヶ月の入院と1ヶ月の通院の場合は770,000円程度の慰謝料ということになります。


※むち打ちなどの多角的所見のない場合は別表Ⅱによることになりますが、別表Ⅰよりも金額が少なくなります。


2.後遺障害慰謝料とは

また、後遺障害慰謝料についてですが、これは交通事故による被害のために、治療を継続しても回復しない後遺障害を受けたことに対する慰謝料で、後遺障害慰謝料を受けるには、後遺障害認定を受けている必要があります。そしてその金額は等級に応じて異なってきます。


自賠責保険からは等級に応じて下記の保険金が支払われることになり、例えば後遺障害認定において10級に認定されると、187万円の後遺障害慰謝料が自賠責保険から支払われることになりますが、加害者が任意保険に入っておれば、保険会社から自賠責保険金額に上乗せした金額が支払わる場合もあります。さらに、弁護士が介入すると、判例に基づいた裁判基準(弁護士基準)により550万円程度を請求することになります。


下記に、後遺障害等級別の後遺障害慰謝料の、自賠責保険金額・弁護士基準による違いを示します。

後遺障害等級自賠責保険金額弁護士基準(裁判基準)
1級1,100万円2,800万円
2級958万円2,370万円
3級829万円1,990万円
4級712万円1,670万円
5級599万円1, 400万円
6級498万円1,180万円
7級409万円1,000万円
8級324万円830万円
9級245万円690万円
10級187万円550万円
11級135万円420万円
12級93万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

また、保険会社にも後遺障害慰謝料の算定基準がありますが、弁護士が介入する場合の弁護士基準とで金額が異なることがあります。保険会社の基準で早期に示談解決することもメリットではありますが、時間をかけてもいいのであれば弁護士費用のことを考えても、弁護士に依頼した方が得られる経済的利益は大きくなることがあります。


③死亡慰謝料とは

交通事故被害により被害者が死亡してしまった場合に支払われる慰謝料です。自賠責保険からは、一律350万円が支払われることになります。また、遺族となった方(近親者)にも慰謝料は支払われ、請求者が1人であれば550万円、2人であれば650万円、3人以上であれば750万円となります。保険会社の任意保険基準は非公開ですが、自賠責保険基準よりは高く、弁護士基準よりは低くなるようです。

弁護士基準では、「赤い本」に記載されている基準をもとにして請求されますが、亡くなられた方が以下のように、どのような立場の方だったかによって異なります。

被害者の立場弁護士基準で請求できるおよその死亡慰謝料額
一家の支柱としての存在2800万円~3600万円程度
母親、配偶者などの場合2000万円~3200万円程度
独身の場合2000万円~3000万円程度
子供の場合1800万円~2600万円程度
高齢者の場合1800万円~2400万円程度

参考:死亡逸失利益とは

なお、被害者が死亡した場合には、死亡による逸失利益なども請求対象となります。

具体的な計算式は、

死亡逸失利益 =
1年あたりの基礎収入 × (1-生活費控除率) × 稼動可能期間に対応するライプニッツ係数

となります。
ここで生活費控除率は、交通事故が起こらなかった場合に必要とされる生活費の割合です。死亡後は生活費がかからないため、その分を控除します。具体的には下表のような値が実務上用いられます。

条件生活費控除率
被害者が一家の支柱で被扶養者が1名の場合40%
被害者が一家の支柱で被扶養者が2名以上の場合30%
被害者が一家の支柱ではなく男性の場合50%
被害者が一家の支柱ではなく女性の場合30%

一方、稼動可能期間に対するライプニッツ係数とは、労働能力喪失期間に応じた一定の係数で、67歳まで働けたとして換算するものです。下表のようになります。

※高齢者の場合は、「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」のいずれか長いほうの期間を稼働可能期間とされています。


※未就労の子供・学生の場合は18歳もしくは大学生の場合は22歳が稼動開始期間の起点となります。

労働能力喪失期間稼動可能期間に対するライプニッツ係数
1年0.9523
2年1.8594
3年2.7232
4年3.5459
5年4.3294
6年5.0756
7年5.7863
8年6.4632
9年7.1078
10年7.7217
11年8.3064
12年8.8632
13年9.3935
14年9.8986
15年10.3796
16年10.8377
17年11.274
18年11.6895
19年12.0853
20年12.4622
21年12.8211
22年13.163
23年13.4885
24年13.7986
25年14.0939
26年14.3751
27年14.643
28年14.8981
29年15.141
30年15.3724
31年15.5928
32年15.8026
33年16.0025
34年16.1929
35年16.3741
36年16.5468
37年16.7112
38年16.8678
39年17.017
40年17.159
41年17.2943
42年17.4232
43年17.5459
44年17.6627
45年17.774
46年17.88
47年17.981
48年18.0771
49年18.1687
50年18.2559
51年18.3389
52年18.418
53年18.4934
54年18.5651
55年18.6334
56年18.6985
57年18.7605
58年18.8195
59年18.8757
60年18.9292
61年18.9802
62年19.0288
63年19.075
64年19.1191
65年19.161
66年19.201
67年19.239

ですから、例として、基礎収入が事故前の収入として550万円だった一家の支柱である37歳の方が亡くなった場合、扶養者が2名ですと、稼動可能期間は67-37=30年ですので、下記のような計算となります。

死亡逸失利益 =
 550万円 × (1-0.30) × 15.3724 ≒ 5,918万円

このように、高額な死亡逸失利益を慰謝料と共に請求することになります。


【まとめ】

「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」も、「後遺障害慰謝料」も、そして「死亡慰謝料」いずれの場合も、自賠責保険基準<任意保険基準<弁護士基準の順番に慰謝料は高くなっていきます。適切な慰謝料を請求するためには、やはり弁護士が間に入る必要があると言えるでしょう。特に裁判(和解・判決)に持っていく場合には、弁護士の助けが必要不可欠です。

「弁護士に依頼するとかえって高くつくのでは?」と思われる方は、まず弁護士費用特約をお持ちかどうかご確認ください。もしお持ちでしたら、弁護士費用を気にせず、交通事故の示談交渉・慰謝料請求を依頼できるケースが非常に多いのです。また、弁護士費用特約がなかったとしても、訴訟になった場合には、総損害額の10%を弁護士費用として加算して請求することが可能ですので、弁護士に依頼するとかえって高くつくということはほとんどの場合ないと思います。

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7.裁判

1.示談不成立なら裁判(訴訟)を

弁護士に示談交渉を依頼しておくことのメリットとして、「裁判」があります。交通事故の示談交渉が決裂してしまい、うまくいかないときは、弁護士が訴訟を提起し、損害賠償金を獲得できるよう最善を尽くします。


損害賠償を求める裁判は「民事裁判」となります。本人訴訟として、弁護士を使わずに訴訟を提起することも可能と言えば可能ですが、実際に有利に進める上では弁護士に依頼することが賢明だと思われます。


交通事故の損害賠償を求める民事裁判の結果としては2通りが考えられます。「和解」と「判決」です。



①和解

裁判所において、判決まで進んでしまう前に、原告・被告の間で和解が成立することが多いです。民事裁判では、いつでも和解することが可能で、裁判期間中にお互いの話し合いで決着がつけば、裁判官に申し出て告訴を取り下げることも出来ます。状況によっては裁判官が判決の前に和解を勧めることもあります。ですから「裁判」というと次の「判決」のイメージが強いかもしれませんが、裁判所で示談交渉を続ける感覚でしょうか。


和解が成立した場合、「和解調書」に基づいて損害賠償金が支払われることになります。



②判決

裁判所において、裁判官から判決が出されます。その判決書に従って損害賠償金が支払われることになります。


ただし、判決には「上訴」と言う形で原告・被告いずれかから裁判を高等裁判所で続けるよう要求されることがあり得ます。その場合は更に長期間の戦いになります。



2.交通事故裁判の流れ

弁護士に示談交渉を依頼しておくことのメリットとして、「裁判」があります。交通事故の示談交渉が決裂してしまい、うまくいかないときは、弁護士が訴訟を提起し、損害賠償金を獲得できるよう最善を尽くします。


①方針を立てる

まずは、弁護士とよく相談して、裁判の方針を立てます。どの程度の損害賠償額で和解に持ち込むのか、あるいは徹底的に戦うのか、どのくらいの時間的猶予があるのかなど、様々な要因を勘案して裁判の準備を行います。


②弁護士と委任契約を結ぶ

弁護士費用(後述しますが交通事故裁判における弁護士費用については、勝算にもよりますが、心配しすぎる必要はないです)を確認し、弁護士と委任契約を結び、裁判の手続きに着手します。


③訴訟相手を決める

訴訟相手を加害者本人とするか、車の車検証上の所有者(使用者)とするか、加害者の雇用主とするか、それらの両者とするかを決めます。このあたりは弁護士と相談することをお勧めします。


④訴訟の提起と提出

「訴状」と呼ばれる訴えの内容が書かれた文書を作成します。弁護士に依頼しないと、訴状は自分で書かなければならなくなります。しかし、弁護士に依頼することで、訴状の作成から裁判所への提出まで全て代理として行ってもらうことが可能です。なお、訴状は証拠資料の一部も添付して提出することになります。


ここでの書類準備が非常に重要な鍵となります。裁判官は事故の詳細を知らないため、ここで作成された書類をもとに判決を導いていくため、しかりと論理的かつ具体的な証拠を準備する必要があります。


⑤訴状の送達

被告側に訴状が郵送で届けられます。


⑥答弁書が届く

被告側から第1回訴訟期日までに「答弁書」が裁判所に提出され、裁判所を介して届けられます。このとき、一緒に証拠書類も提出されることがあります。


第1回期日

原告の訴状陳述、被告の答弁書陳述、双方から証拠の提出という手続きが行われます。被告側が第1回期日までに答弁書も提出しないで、第1回期日に欠席した場合には原告の請求を認める判決がなされることがあります。

⑧第2回期日以降

月に一回程度の頻度で開催され、争点整理を行ない、場合によっては早期に和解を勧められることもあります。和解協議が成立すると、「和解調書」が作成され、法的拘束力を持つようになります。和解成立にならない場合には当事者の本人尋問や証人尋問が行われて判決ということになります。

⑨判決

交通事故などの損害賠償訴訟では、弁護士費用分として認定損害額の1割の金額を上乗せし、事故日から損害金の支払が終わるまで年5%の遅延損害金の支払いが認められます。したがって、事故日から2年が経過していると、弁護士費用として10%、遅延損害金として10%、合計20%が上乗せされることになりますので、訴訟提起した場合に経済的に損をするということはないと思います。


⑩(場合によって)控訴

判決に不服の場合、各当事者は2週間以内に控訴することができます。控訴した場合、少なくとも数ケ月は解決が先送りになりますので、控訴するかどうかは、弁護士とよく相談して決めた方がいいと思います。相手側が控訴することも当然にありますが、その場合には当然に解決は先送りになります。


3.交通事故裁判における費用について

裁判となると、弁護士費用が気になる方がいらっしゃるかもしれません。


弁護士費用特約が付帯している保険に加入していれば、弁護士費用のかなりの部分を保険会社が負担してくれます。また、仮に弁護士費用特約がなくても、訴訟費用は加害者側に請求することができますし、交通事故などの「不法行為」に基づく損害賠償請求の場合は、弁護士費用を一部、加害者側に請求することができる場合があります。(実際には判決において提示された損害額の一割程度を弁護士費用として加害者側に賠償させることが多いです。)


もし、弁護士費用がそれ以上にかかった場合であったとしても、その他の慰謝料や逸失利益、後遺障害慰謝料、休業損害などの増額分を考えれば相殺され、経済的なメリットが十分に残るケースが多いのです。


示談交渉がこじれ、裁判に持ち込んだとしても、弁護士費用を上回る経済的なメリットが見込める場合は、弁護士に依頼して訴訟を起こすべきでしょう。


実際、交通事故の被害にあった方は、治療や今後の生活のための経済的な支えを獲得する権利を有しているのですから、費用を気にせず弁護士のサポートを得て、損害賠償を得ることが大切です。


まずは、費用のことも含めてじっくりと弁護士とご相談いただきたいです。



【まとめ】

交通事故の被害者となった場合、適切な損害賠償を得、経済的な支援を十分に受けることがとても大切です。しかし、それまでにはいくつかの大きなハードルが存在します。


例えば加害者や保険会社との交渉、法的・医学的な専門知識、求められる高い交渉能力、迅速さが求められる複雑な保険の請求手続き、そして精神的なストレスや肉体的な痛みと疲労・・・。どれをとっても一般の方が一人で太刀打ちできるものではありません。なおのこと、示談交渉がうまくいかない場合には訴訟となりますが、それには強力なサポーターが必要となるでしょう。


交通事故の被害者をサポートできるのは弁護士です。交通事故に強い弁護士であれば、訴訟を前提とした示談交渉を行い、それでも決裂した場合には、法的な知識と経験を総動員して裁判を通し、交通事故被害者を支援することができるのです。


田中法律事務所では交通事故に関する実績が多数ございます。交通事故で被害に遭われ、示談交渉がうまくいかない場合や、裁判をご検討の方も、まずはお問合せください。

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