2021/03/07
コラム
借金が返せないと、給料が差し押さえになる可能性があることはご存知でしたか?
その命令はある日突然、裁判所から職場に下されます。もちろん、その前に返済の督促はきます。差し押さえになるのはそれでもお金を返さない場合に限られますが、もし実際に差し押さえがされたら、勤務先での立場が危うくなる可能性もあり、その後の生活も困るので一大事です。
今回は、給料差し押さえまでの流れと、差し押さえを解除する方法を解説します。また、予め回避する方法も併せてご説明します。
1.給料差し押さえについて
(1) 差し押さえとは
借りたお金を返せなくなったら、自分の財産が差し押さえられます。
一般的に「差し押さえ」と言うと、住宅を取り上げられるようなイメージがあるかもしれませんが、その他に車、給料、預金なども差し押さえ対象です。
差し押さえは、債権者の権利を守るために、返済不能に陥った債務者が自分の財産を勝手に処分しないようにする手続です。
差し押さえは裁判所の差し押さえ命令によって実行します。差し押さえられた財産は後に競売にかけられ、債権者に公平に分配されます。
給料の差し押さえは、不動産に比べてお金に変える必要もないので、債権者にとっては非常に便利です。給与所得者で、数か月滞納している借金のある人は、給料を差し押さえされるリスクが高いので注意が必要です。
しかし、借金を返せないからと言って、直ちに差し押さえになるということはありません。
(2) 差し押さえまでの流れ
次に、差し押さえに至るまでの流れを解説します。
借金の返済が遅れると、貸金業者は裁判所に「支払督促」をするように訴えます。そのままにしていると、裁判所から債務者に支払督促状が届き、2週間以内に異議申立をしないと、「仮執行宣言付き支払督促」が出されます。
2.給料差し押さえられるとどうなる?
差し押さえが行われると、社会生活上でも様々な影響が発生します。特に給料は会社からもらっているので、差し押さえの命令は職場にいくことになります。
(1) 会社に借金問題がバレる
給料が差し押さえを受けると、裁判所から勤務先に差し押さえ命令の書類が送られます。これにより雇用者は債務者本人に給料を支払うことが禁止され、債務者も会社に給料の支払いを求めることができなくなります。
この時点で、債務者の借金トラブルは雇用者に知られることになります。そのことで会社をクビになることはありませんが、受け取る給料が減ることに加え、職場で良くない噂が立ったり、信用を失ったりすることもあるので、その後の生活に与える影響が非常に大きいと言えます。
雇用者が給料を貰えない債務者に同情して「給料を払ってあげたい!」と思っても、それは現実的ではありません。仮にそうした場合は、雇用者は債権者に対して差し押さえ分のお金を支払う必要があり、雇用者が差し押さえ相当額のお金を2倍払うことになるからです。
差し押さえは、命令が出されたら必ず実行されます。しかし、その際に給料の全額を没収したら、債務者は生活をしていくことができません。そのため、給料の差し押さえについては一定の限度が定められています。
それでも異議申立がなかったら、判決が確定して、債務者は財産を差し押さえられます。
差し押さえは支払督促がきてから数週間のうちに行われるので、差し押さえを回避する時間はあまりありません。そのため、裁判所から督促がきたら、速やかに弁護士に相談して対応しましょう。
(2) 差し押さえは手取りの4分の1が基本
給料の差し押さえは、債務者の生活費を残すことも視野に入れています。
そのため、差し押さえできるのは、給料から税金や社会保険などを引いた手取りの4分の1の額と定められています。ただし、給料の手取りが44万円を超える場合は、33万円を残した残額を差し押さえすることになります。
給料の4分の1は決して少ない額ではなく、毎月そのお金が入ってこなくなることで、生活が立ち行かなくなることも少なくありません。
3.債務整理で差し押さえを解除する方法
差し押さえを回避できるのであれば、それに向けて早めに手を打つ必要があります。
その対処法としておすすめしたいのは、個人再生と自己破産です。借金を滞納していても、この2つのいずれかの手続をとることで、差し押さえをストップすることができます。
個人再生や自己破産にはデメリットもありますが、借金の減額・免責ができ、さらに給料の差し押さえを止めることもできます。
差し押さえの解除・中止・取消は、個人再生、自己破産で手続が異なるので、以下ではそれぞれの方法について解説します。
4.個人再生による解除方法
(1) 差し押さえを解除できるタイミング
個人再生で差し押さえを解除できるタイミングは2つあります。1つは個人再生を申し立てた段階、もう1つは個人再生認可決定後です。
①個人再生の申立による中止
最初は、個人再生申立時点による差し押さえの中止についてです。
個人再生手続をするときは、偏頗弁済(へんぱべんさい)が禁じられており、一部の債権者にだけ借金を返すことはできません。
実は給料の差し押さえも偏頗弁済の一種と見なされるので、個人再生を申立した段階で中止命令を出すことができるのです。
個人再生の申立をしたタイミングで差し押さえを中止するには、その裁判所に「強制執行中止の申立」をします。裁判所が必要であると認めれば、開始決定前であっても差し押さえを中止することができます。
手続の流れとしては、最初に個人再生手続をする裁判所に申立をして、裁判所の差し押さえの中止命令を待ちます。
再生手続をする裁判所と差し押さえ命令を出す裁判所は違うので、中止命令が出たら、その中止命令正本を添えて、差し押さえ命令を出した裁判所に「執行停止の申立」をします。
それを受けて最終的に後者の裁判所から執行停止命令が出され、給料が債権者に渡されることはなくなります。
②個人再生認可による解除
個人再生開始決定して認可されると、当然のように差し押さえは効力を失います。このタイミングの解除は申立時の中止と異なり、特別な申請は必要ありません。
ただし、先ほどと同様に、個人再生を認可する裁判所と、強制執行命令を出す裁判所は異なるため、差し押さえ手続を中止するには、強制執行中止の上申書を個人再生決定の正本を添えて、後者の裁判所に提出する必要があります。
個人再生の認可後は、差し押さえの効力はなくなるので、給料を全額受け取ることができます。
(2) 差し押さえ中止後の給料はいつもらえるか
個人再生の申立で差し押さえが中止されても、翌日に給料を受け取れるわけではありません。申立段階ではあくまで手続を中止しただけであり、効力を失っている訳ではないからです。
差し押さえ中止から個人再生認可決定までの間は、差し押さえ分の給料は会社に保留されるか、法務局の供託所に預けている場合はそこで保留します。
そして、個人再生認可されたタイミングで、債務者はそれまでの保留分の給料を受け取ることができます。
(3) 給料差し押さえの取消をする方法
個人再生が認可されれば、差し押さえされた給料は支払われますが、それまでに申立から半年以上かかるのが一般的です。それまでに給料がないと困る人は、差し押さえの取消をする方法もあります。
差し押さえの取消をするには、裁判所に「強制執行取消の申立」をしなければなりません。取消の申立が認められるのは、基本的には個人再生開始決定後です。
しかし、決定前であっても事業資金の調達などやむを得ない事情があれば認められることもあります。ただし、給与所得者の場合はそうしたケースは想定できないので、あまり適用されることはありません。
給与所得者に対しての取消は、開始決定後の取消が大半で、再生計画のために必要であると判断されれば差し押さえは取り消されます。
例えば、再生計画の分割予納金の資金や、弁護士費用の捻出といった、給料をすぐに必要とする事情があれば、取消を認めることが考えられます。
(4) 個人再生は差し押さえを防ぐ効果もある
個人再生手続をすると、債権者は途中で差し押さえを中止しなければならないので、再生準備に入った段階で相手が諦めることもあります。差し押さえをするには債権者も時間と資金を必要とするので、途中で頓挫すると労力に見合わなくなるからです。
そのため、借金が返せないときは、いち早く個人再生の準備に入り、弁護士から債権者にその旨を告げることで、給料の差し押さえを早期に防ぐことも可能です。
また、個人再生は債権者に差し押さえの取り下げをお願いできる材料にもなります。個人再生が認可されれば差し押さえは効力がなくなるので、再生準備に入ったことを伝えれば、取り下げてもらえることも多いです。
5.自己破産による解除方法
(1) 同時廃止と管財事件
差し押さえの解除は自己破産によっても行うことができます。自己破産は「同時廃止」と「管財事件」の二種類あり、それぞれ内容が異なります。
①同時廃止による解除
同時廃止を選択した場合は、同時廃止申立をして、自己破産手続開始決定がされれば差し押さえを中止することができます。
ただし、免責確定までは差し押さえ分の給料を貰うことはできません。どうしてもその間に給料をもらう必要がある場合は、管財事件として処理する必要があります。
また、債権者が訴訟手続をしているときは、免責確定まで裁判は進行するので、仮執行宣言の判決が出てしまうと、そこで差し押さえをされるリスクはあるので注意が必要です。それを防ぐには管財事件を選択することをおすすめします。
同時廃止の場合、免責確定後はそれまでの差し押さえ分を遡って給料を全額受け取ることができます。
②管財事件による解除
管財事件では、自己破産手続開始決定がされれば、給料の差し押さえは効力を失います。債権者は個別に差し押さえをする権利もなくなります。
管財事件になると破産管財人が選出され、開始決定前に差し押さえを受けた給料については、破産管財人の判断によって受け取れるケースが大半です。
(2) 早めに自己破産するのも一手
自己破産の開始決定がなされると、その後は新たな差し押さえをすることはできません。給料は全額貰え、勤務先に差し押さえ命令がくることもありません。職場に借金問題がバレたら困る人は、早めに自己破産をするのも一つの手です。
自己破産をするとマイホームなどを手放す必要はありますが、賃貸住まいであれば没収されるものも限られています。
借金問題に苦しんでいる人は、債務整理のメリットとデメリットを天秤にかけて、弁護士と一緒にベストの解決策を探しましょう。
6.任意整理では解除できない
債務整理は、任意整理、特定調停、個人再生、自己破産の4種類があります。このうち最も多く選ばれているのは任意整理です。
任意整理は手続に裁判所が関わらず、デメリットも少ない制度ですが、給料の差し押さえを解除する効果はありません。
差し押さえをストップさせるには、あくまでも個人再生と自己破産の2択となりますので、そのいずれかの方法を検討しましょう。
7.まとめ
勤務先に給料の差し押さえ命令を出されたら困る人は、借金の返済ができなくなった段階で、できるだけ早く個人再生か自己破産の手続を検討しましょう。実行のタイミングによっては、差し押さえを防ぐことができます。
借金滞納から時間が経つほど、差し押さえのリスクは高まるので、返済に行き詰ったら早期に弁護士に相談することをおすすめします。一人で悩まずに専門家と一緒に解決していきましょう。
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